白鯨の健康日記 筆者:吉國友和  update:2009.10.26 
           

新型インフルエンザワクチン


その1:インフルエンザワクチンの作り方
その2:アジュバント付加ワクチンの長所・短所
その3:新型インフルエンザワクチン、効果の持続期間


新型インフルエンザワクチンはどれぐらいの期間有効か?
新型インフルエンザワクチン
インフルエンザワクチンは、流行前に接種することで1シーズン有効だと考えられています

従来のインフルエンザワクチンを接種した直後の効果はなく、数週間して初めて効果が得られることが知られています。また、流行したウイルスとワクチンの抗原が一致した場合、いわゆる「ワクチンが当たった場合」の持続期間は約3ヶ月、ちょうどインフルエンザが流行する冬季をしのぐことができるぐらい有効だと言われています。

特に、過去にインフルエンザに罹患した場合など、そのウイルスの情報を体内の免疫細胞であるリンパ球が記憶している場合にワクチンを接種すると、有効性が3ヶ月以上にわたって持続することがあります(基礎免疫のある状態)。


新型インフルエンザに対する免疫がない?
ワクチン接種で2ヵ月後はどうなる・・・?
子供へのワクチン接種
新型インフルエンザの発症は未成年が大半を占めていますが、いずれは大人にも広まりそうです

ところが、ワクチンの説明書(添付文書)には「基礎免疫のない場合には、効果の持続期間がさらに1ヶ月近く短縮される(※1)」という記述があります。基礎免疫は実際に感染して治癒するか、あるいはワクチンによって得られることがあるものです。

すでに新型インフルエンザは流行を起こしていますし、本来の活動期である冬季を中心に更に感染が拡大すると考えられていますので、できるだけ早期のワクチン接種に頼らざるを得ないのが現状だとは思います。しかし、基礎免疫がないことで問題となっている新型インフルエンザ、春を迎えるまでその効果は持続するのでしょうか(※1)。


なお、今回の新型インフルエンザは、スペイン風邪を経験したことのある高齢者(概ね90才以上か)の方であれば、すでに体内に基礎免疫を有している可能性があるとされています。その他の世代でも、当初から免疫力の有無についての議論がありますが、① 現在の発症が未成年に集中していること、② 新型ワクチンを接種した場合の抗体価上昇率が高いこと(※2)などから、20才以上の成人では従来のインフルエンザに対する免疫を有する人は、今回の新型インフルエンザに対しても免疫力を有している可能性がありそうです。この場合、予防接種によって過去のインフルエンザに関する免疫の記憶がよみがえれば、ワクチンの効果が3~5か月間ぐらいは持続することも考えられます。反対に、基礎免疫がまったくないと考えられる小児では、やはり1回の接種では不十分で、2回接種が望ましいかもしれません。


今回の新型インフルエンザについては、最も重要なのは子供たちと妊婦さんを守ることだと考えています。11月からは医療従事者以外の方に対する新型インフルエンザワクチンの接種が開始されます。ワクチン不足という事態も生じる恐れはありますが、だからといってすべての人が感染・重症化するとは限りません。まずは基本的な手洗いやうがいを頻繁に行い、人ごみを避ける努力を怠らないようにしましょう。


[インフルエンザ関連]
豚インフルエンザの発生
新型インフルエンザ・院内レクチャー
新型ワクチン接種でも感染? (2009/11/17 リンク追加)

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【注釈】
※1 効果の目安である抗体価については、検査上の限界があります。例えばワクチンを受けた人の抗体価が、見かけ(血液検査)では上昇していなかったとしても、免疫細胞に情報が記憶されていれば、実際にウイルスに感染した際には重症化を防ぐのに十分な免疫反応が起こることも時にはあります。

※2 従来の季節性インフルエンザと今回の新型インフルエンザはまったくの別物なので、これまでの季節性インフルエンザに対する免疫力は無効である。ところが、新型ワクチンを1回接種した場合、短期間にも関わらず抗体価上昇率が思いのほか高い(従来のワクチンを3週間間隔で2回接種した場合は77%が有効予防水準に達するという)。免疫がまったくない場合にはこれほどの有効性(反応)はないはず。つまり、過去のインフルエンザに対する免疫反応が、異なるウイルスであるにも関わらず今回の新型インフルエンザウイルスに対しても、幾分かの働きかけをするのではないか、という考え方です。