気管支喘息はどんな病気?

 気管支喘息は気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が生じているため、
 風邪などの感染症、アレルギー反応などにより咳や呼吸困難などの発作を
 生じる病気です。
慢性疾患のため、発作を起こさせない、将来的な悪化を
 防ぐ、
といった予防的な治療が必要です。
 重篤な発作をきたした場合には、若年者であっても生命に危険が及びます。

発作の原因   喘息発作の原因は?

 (1)アレルゲン吸入
    アレルギーの原因となる物質をアレルゲンといいます。気管支喘息発作の
    誘因となるアレルゲンとして多いのは、ダニ・ハウスダスト、猫のフケなど
    です。最近ではハムスターなどが原因となり、気管支喘息の発作が生じる方も
    いらっしゃいます。  参考:C-PAC 16(アレルゲンを調べる検査の1種です)

 (2)運動
    激しい運動により喘息発作が生じることがあります。このような場合では、
    運動前に気管支拡張薬を予防的に吸入し、症状を緩和することも考えられます。
    (運動誘発性喘息:Exercise induced athma)
    気道からの水分消失量や酸素消費量の多いサッカー・バスケットボールといった
    球技やランニングなどで多く、水泳では少ないようです。発作のコントロールの
    他に準備運動、鼻呼吸、マスク装着による気道内の乾燥予防などを行うことで、
    運動誘発性喘息を抑えることが可能です。

 (3)薬剤
    頭痛などに用いられるアスピリンないし類似薬剤によって気管支喘息発作を
    生じることがあります。アスピリン喘息と呼びますが、イチゴなどのサリチル酸を
    多く含む食品を摂取しても同様の発作を生じることがあります。
    アスピリンを含むシップ薬だけでも、症状が出現する方もいらっしゃいます。


治療   気管支喘息の治療・薬剤の特徴は?

 気管支喘息では軽度の発作であれば、短時間作用型気管支拡張剤(メプチンエアー)
 により症状が緩和しますが、慢性的な炎症性疾患であるため、一時的に症状が改善
 しても放置した場合に更に悪化する危険性があります。特にこれらの薬だけに頼り、
 何年も経過した場合には慢性的な炎症が進行した結果、気道の構造に変化が出現し
 気管支拡張剤の作用が減弱したり、時には致死的な発作をきたしたりすることが
 ありますので要注意です。
 このため、気道内の炎症をおさえ、将来的な悪化及び発作を起こさせない、
 予防的治療が必要となります。

1.
吸入ステロイド(フルタイド、パルミコートなど)
 気道の炎症を抑えるにはステロイド剤が最も有効です。
 ステロイド剤は内服・注射・点滴などで使用する場合には全身へ作用しますので、
 長期間使用する場合には副作用にも注意を払う必要があります。
 このため、予防的治療としてステロイドを用いることは難しく、多くの方では気管支
 喘息の発作が生じた場合に限って全身投与を行うこととなります。
 これに対して、吸入によるステロイド剤の投与を行う場合は、全身へ吸収される
 薬剤量はごく軽微なものですので、全身への副作用はほとんどありません。
 気管支喘息では発作を繰り返すほど気管支の壁が厚く硬くなり、放置した場合には
 難治性となり、慢性的に症状が持続するようになる危険性があります。
 このため気管支喘息に対しては、発作を予防する吸入ステロイド剤による定期的な
 治療が推奨されます。

2.抗アレルギー剤(ロイコトリエン拮抗薬)(キプレス、アコレートなど)
 気管支喘息の発作により、炎症に関わる様々な血液内の細胞からアレルギーを
 誘発する物質が分泌されます。このアレルギー反応を抑制するため、抗アレルギー剤を
 併用することもあります。この抗アレルギー剤は、花粉症に用いられる種類とは
 まったく異なるもので、気管支喘息ではロイコトリエンという物質に対して効果を
 発揮する薬剤を用います。

3.短時間作用型気管支拡張剤(サルタノール、メプチンクリックヘラーなど)
 気管支喘息の発作により収縮した気管支を拡張させる薬剤です。
 発作が軽度であれば、この薬剤で症状が改善し自然に炎症が治まることもありますが、
 炎症そのものを抑える薬剤ではないため、一時的な作用となります。
 この薬剤により気管支喘息が改善したように思われ、苦しいときだけ吸入を行うなどして
 経過された結果、ある日突然重篤な発作を起こされる方も多いです。
 症状そのものは改善するかもしれませんが、この薬剤だけに依存することは危険です。

4.長時間作用型気管支拡張剤(セレベントディスカス、ホクナリンテープ)
 上記の短時間作用型気管支拡張剤に対して、こちらは長時間作用するタイプの薬剤です。
 例えばホクナリンテープという貼付薬に関しては、1日1枚肩や背中などに貼り付ける
 ものですが、他の薬剤と併用することで咳などの自覚症状を更に和らげることが可能です。
 ただし、短時間作用型のものと違い、作用するまでに時間を要しますので、発作時には
 短時間作用型気管支拡張剤(吸入)を用います。

5.配合剤(アドエア:吸入ステロイドと長時間作用型気管支拡張剤を含んでいます)
 炎症を抑えるための吸入ステロイド、気道狭窄に対する気管支拡張剤を配合した薬剤です。
 国内ではアドエアという薬剤のみ用いられています(2007年7月現在)。
 長時間作用型気管支拡張剤と吸入ステロイド剤を同時に吸入することが可能になりました。
 それぞれの薬剤の量が決まっているため、患者さん毎に吸入ステロイド剤を微調整することが
 難しいのですが、臨床的には有用な点も多いです。

6.テオフィリン製剤(テオドール、ユニフィルなど)
 気管支平滑筋を弛緩させることで気管支を拡張する作用を有します。ただし、上に述べた
 短時間作用型気管支拡張剤に比べて作用が弱く、また有効性を示す根拠が乏く(
)、
 当科では気管支喘息の患者様へはあまり使用していません(例外として慢性閉塞性肺疾患を
 合併されている場合には使用することがあります)。また、高濃度となると様々な副作用が
 懸念されるため、安定した血中濃度を保つ必要があります。
 →薬物血中濃度測定について

 (
)実験では炎症を抑える作用などの報告はありますが、実際の臨床上の有益性を示す
    データが少ないようです。ただし、抗炎症作用を期待して低用量で用いられる
    ケースもあります。

気管支喘息の治療に用いられる代表的な薬剤は以下のようなものです。
 (注意:薬価は医療保険による3割の負担額を表し、小数点以下を四捨五入しています。
     平成18年4月からの薬価となります。)


   
   吸入ステロイド:気管支喘息の最も基本的な治療薬です。
           定期的に吸入を行うことで炎症を抑え、発作を予防します。
           (吸入ステロイドと気管支拡張剤の配合剤はこちらに記載しています。)

   付記:胎児への影響について(2015年に撤廃されたFDAによる安全性基準)

薬剤名 吸入可能回数 標準使用量
(中等症)
1日当たりの薬価
(中等症)
胎児への安全性
(FDA)
パルミコート(200)
11.2mg 1本
約56回 2~4吸入 18~36円
フルタイドディスカス
(100)1ヶ
60回 2~4吸入 24~48円
キュバール(100)1本
約100回 2~4吸入 24~48円


    治療にかかる費用
     パルミコート(200)を1日2吸入する場合は
            ・・・・・
1年で約6033円(薬剤費用のみ、受診料等別)
     中等症の発作で入院が必要となった場合(入院期間7日間と仮定)
            ・・・・・
7日間で約52,000円(治療費、食費込み)



   
   抗アレルギー薬:ロイコトリエン拮抗薬というお薬です。
           花粉症に用いる抗アレルギー薬とは異なります。

薬剤名 内服時間 1日の使用量 1日当たりの薬価
キプレス(10) 眠前 1錠 86円
アコレート(20) 朝食後、眠前 2~4錠 62~124円


   
   短時間作用型気管支拡張剤:基本的には苦しいときだけ使用するお薬です。
                発作時の呼吸困難感を改善しますが、一時的な作用です。

薬剤名 処方単位 1回の使用量 薬価(1本) 薬価(1吸入)
メプチン
クリックヘラー
1本で200吸入 1~2吸入 436円 2円
サルタノール
インヘラー
1本で100吸入 1~2吸入 323円 3円


   
   長時間作用型気管支拡張剤:定期的に使用することで安定した状態を保つためのお薬です。

薬剤名 処方単位 1日の使用量 1日当たりの薬価
セレベントディスカス(50) 1個(60吸入) 1日2回吸入 42円
ホクナリンテープ(2) 1枚ごとに処方可能 1日1枚貼付 34円


   
   配合剤:長時間作用型気管支拡張剤(セレベント)と吸入ステロイド(フルタイド)を含んでいます。
       安定期にある気管支喘息のコントロールに用います。
       アドエア(100)1吸入:セレベント(50)1吸入+フルタイド(100)1吸入
        ※同時に吸入を行うほうが肺機能(ピークフローなど)の改善につながるという研究結果も
         あり、実際の効果は両薬剤を別々に吸入した場合と異なる可能性があります。

薬剤名 吸入可能回数 使用量 1日当たりの薬価
アドエア(100) 28回 1日2吸入 66円
アドエア(250) 28回 1日2吸入 77円


  
  薬剤血中濃度測定について
   テオフィリン製剤、抗てんかん薬など、いくつかの薬物に関しては、最も適した血中濃度の
   幅がせまく、過量投与により中毒症状が出現することがあります。このため、特定の薬剤に
   ついては血中濃度を計測することが必要です。

  テオフィリン製剤を例に挙げると、かかる管理料は以下のとおりです。

  (特定薬剤治療管理料:月1回まで算定可)
初回月 2~3ヶ月 4ヶ月以降
テオフィリン製剤 750点 470点 235点
3割負担では 2250円 1410円 705円
1割負担では 750円 470円 235円

  月に1回算定可とは、血液検査を行い血中濃度を測定した場合、月に1度まで管理料として
  医療機関への収入と認められるという意味です。
  同じ月に検査を2度行っても、管理料は1回分のみが認められます。

  具体的には、上記のテオフィリン製剤について、特殊な血液検査で血中濃度を測定すると
  初回には2250円、2ヶ月目と3ヶ月目には1410円診療・薬剤費用以外に医療費が
  必要となります。ただし、長期間投与している方など、状態が安定している場合では
  血液検査を行わないこともあります。
  患者様への負担が増えてしまい申し訳ないのですが、安全性を重視するため初回投与時や
  長期間使用する必要がある場合、もしくは他医療機関から定期的に処方されている方が
  当科受診を希望される場合などでは、必要に応じて測定させていただいています。

直線上に配置


                治療について

 ① 基本治療方針
   将来的な悪化を防ぐことを目的に吸入ステロイド剤や抗アレルギー剤などを併用する治療が
   主体です。経過をみて、状態が安定されていらっしゃる方の場合には、吸入ステロイド剤のみ
   最小限必要な量だけ吸入を持続していただいています(急な症状があった場合の一時的な気管支
   拡張薬を除いては、他の薬剤は処方しないことが多いです)。
   国内では発作時・安定時ともにテオフィリン製剤が繁用されていますが、発作時には効果が
   乏しく、また安定期にもあまり効果が得られることが少ないため、(欧米の治療方針と同様に)
   当科でもテオフィリン製剤はあまり使用していません。
   例外として、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫・慢性気管支炎)などの基礎肺疾患が存在する方で
   気管支喘息の治療も同時に必要な方に限っては使用することがあります。ただし使用する
   場合にも、自覚症状や肺機能の検査結果などを参考として、必要性のない場合には速やかに
   中止するようにしています。

 ② 目標
   発作を予防するだけではなく、運動などを行っても日常生活に影響が出ないことが治療の
   目標です。風邪などをきっかけに、どうしても一時的な発作が生じてしまうことがありますが
   症状出現後、早期に受診された場合には一時的に複数の薬剤を使用することで、発作が重症化
   することによる入院をしないですむように努めています。

 ③ 管理体制
   少なくとも年に1回程度の肺機能検査(肺活量検査)などを行うことで、喘息症状が慢性化して
   いないかを注意深く確認するようにしています。
   少量ステロイド吸入だけで安定されていた方が、風邪などにより喘息発作を起こされた場合、
   気管支拡張剤吸入の他にステロイド剤内服(短期間)及び抗アレルギー剤内服、必要に
   応じて抗菌薬(マクロライド系)などを併用した治療を行い、状態が安定した段階で薬剤を
   中止するステップダウン方式という治療法を用います。
   この方法は安全性・有効性のみならず、経済性にも大変優れています。

 ④ 医療費について
   気管支喘息の入院治療にかかる医療費については、こちらのページを参考にしてください。




                       
筆者:吉國友和 




  
気管支喘息

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薬剤血中濃度測定(テオフィリン)
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