アスベスト検診:アスベストとは?

     アスベスト(石綿・いしわた・せきめん)はその耐熱性・電気絶縁性が高いこと
     などから、建材・断熱材・ブレーキ・セメントなど、様々な工業原料に長年に
     わたって使用されてきました。このごく細かな粉塵を吸引してしまったことで
     何年も経過してから呼吸器を中心とした障害を及ぼしてくることがあります。



  (異常所見の定義)

    ※ここでの「異常」とは、以下のいずれか1つを満たす場合です。
    (1)レントゲン写真・肺機能検査のいずれかに異常所見のある場合

    (2)蓄痰細胞診でクラスⅢ以上の異常所見
        細胞診はⅠからⅤの5段階で評価されます。
         クラスⅠ:正常
         クラスⅢ:疑陽性
            (炎症など、明らかながん細胞は見られないが
             経過観察を要するもの。)
         クラスⅤ:明らかに、がん細胞が見られるもの。


  アスベスト検診の内容:レントゲン写真、肺機能検査(肺活量の検査です)、喀痰検査

   当科ではアスベスト(石綿)による肺障害についての検診を行っています。
   検診では保険適応となりませんので、実費が必要となります。
  (ただし、問診・症状などからアスベストによる肺障害の疑いがある場合には
   保険診療となります)

   これらの検査結果から何らかの異常が疑われる場合には、胸部CT検査や
   気管支鏡検査などの精密検査をお勧めします(当院で検査可能です)。


 標準検診(1~4の項目)
   1.診察・問診
     アスベスト曝露の有無やその状況(職場、環境)などを確認します。

   2.胸部X線写真

   3.喀痰細胞診(蓄痰細胞診断)
     喀痰の中に肺癌の細胞や、アスベストの小さな破片(アスベスト小体)が
     含まれていないかを確認します。肺癌検診と同様に、ご自宅で3日間ほど
     痰を容器に採取していただきます。

     
   4.肺機能検査
     肺活量の検査を行います。アスベストによる肺障害では、末梢気管支が細く
     なったことを反映する閉塞性障害が見られることがよくあります。
     ただし喫煙者で閉塞性障害が見られた場合、原因が喫煙なのかアスベスト
     なのか特定しにくいこともあります。

  
ここからの項目はオプション検査です。
   5.胸部CT検査
     アスベストによる肺障害を示す根拠として胸膜プラークという所見が見つかる
     ことがあります。この胸膜プラークは通常のレントゲン写真と比べてCT検査の
     方が発見される確率は高いとされています。(詳細)

   6.腫瘍マーカー
     肺癌が存在すると、血液中のある物質の濃度が高くなることがあります。
     これらの物質を総称して腫瘍マーカーと呼びます。腫瘍マーカーはすべての
     肺癌で上昇するわけではありませんが、画像所見などと組み合わせることで
     肺癌の有無、治療経過の参考などに応用できます。

   7.心電図検査

     アスベストが原因となる悪性中皮腫は肺を覆う胸膜に発生することが有名ですが
     (胸膜中皮腫)、心臓を覆う心膜に発生することもあります。この場合、心電図
     検査や心臓エコー検査などが有用となることがあります。
     ただし心膜に発生する中皮腫は胸膜中皮腫と比べて少なく、アスベスト検診として
     この検査を行うだけの有用性を示す根拠に乏しいため、心電図検査はオプションと
     しています。


  アスベストによる呼吸器障害(代表的疾患のみ)

  1、石綿肺(アスベスト肺):Pneumoconiosis(Asbestosis)
   塵肺(じんぱい)と呼ばれる疾患の中で、原因がアスベストによるものです。
   軽症では無症状のことも多く、胸膜肥厚・胸膜プラークなどのレントゲン写真
   での異常から指摘されることがあります。
   進行すると肺機能の低下をきたし、慢性的な咳嗽・呼吸困難感などの症状を
   呈します。
   慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)と診断されていることもあります。


  2、悪性中皮腫(Malignant mesothelioma)
   アスベストへの曝露(吸入)から何十年もたってから、胸膜(肺を覆う膜)
   などに腫瘍が生じることがあります。吸入したアスベストが、肺の末梢領域で
   胸膜を慢性的に刺激し続けることが原因とも言われています。

   日本では1960年代からアスベストの使用が急増していることから、
   中皮腫の潜伏期間約40年を経過した現代にこの病気が増えてくることが
   推定されます。レントゲンでは石綿肺の所見の他、胸膜の不規則な肥厚や
   胸水貯留などの所見が認められます。
   好発年齢は50~60歳代ですが、国内では稀ながら20歳代でもこの病気が
   見つかったこともあります(※)。
   手術による切除の他、抗がん剤による化学療法・放射線療法などを行うことも
   ありますが、効果は非常に乏しいのが現状です。

  (※)20歳代の方のケースでは、別疾患治療中に偶然見つかったものです。
     ご本人の記憶の限りでは、アスベストへの曝露はなく原因は不明とのこと
     でした。


  
  肺がん・アスベスト検診での胸部CT検査について

  ご希望があれば、検診の項目に最初から胸部CT検査を追加することも可能です。
  (対象は、少なくとも40から50才以上の喫煙者です。)
  メリットは、微小病変の検出が可能なこと、病変の広がりやその性状を把握できる
  ことなどがありますが、デメリットとして被曝量の増加
(注意)、費用が高いこと
  などが挙げられます(参考:医療費  検診費用一覧)。

  CT検査を用いると、ごく早期の肺癌が発見されることがあり、従来のレントゲン
  単独での検診に比較して早期発見・治療が可能であるとされています。
5年後の
  生存率もレントゲン発見による肺癌と比較して良好なのですが
、このことには
  ①もともと早い段階での発見なので、早く見つかったぶんだけ長生きをしている
  だけなので発見時期の影響はないのではないか、②検診を受ける人は健康に注意
  しているので、もともと癌が早期に発見される、③検診では進行の遅い癌のほうが
  見つかりやすいので、レントゲンで見つからずにCTで見つかる癌は、もともと
  進行の遅い癌なのではないか、などの要因が複雑に絡み合っているために、
  
現実的にCT検診が肺癌による死亡率を減少させているか、現在のところ不明です。
  米国ではCT検診の有効性を証明する研究が現在進行中ですが(2015年以降に
  結果が発表される予定)、日本ではレントゲン写真・喀痰細胞診による検診が
  普及しており、費用・倫理的問題点などから、実際に肺癌に対するCT検診が
  どの程度死亡率を減少させるのかを示す研究は行われていないようです。
   参考文献:NPO法人日本胸部放射線医学研究機構発行
   Thoracic Radiology Imaging 肺癌検診、足立 秀治先生著:2006年1月号



  (注意)医学的検査に用いられる放射線量では、基本的に人体に対する影響は
      乏しいと考えられています。
      生体への放射線量はSv(シーベルト)という単位で表しますが、
      (1Sv=1000mSv)1度の被曝で人体に影響が出るとされる被曝線量は
      約250mSv以上、癌や白血病などを発症する危険性は約1000mSv以上と
      されています。
      また、年に複数回の検査を行う場合、放射線により影響を受けた細胞が
      自己修復されるため、検査による被曝量の合計がそのまま影響を人体に
      影響を及ぼすことはありません。

  (参考)自然被曝量(空気・宇宙線など):年間0.8~2.4mSv(日本)
      胸部X線写真撮影:0.1~0.4mSv(1回の検査)
      胸部単純CT:平均9.1mSv(1回の検査)

   検査被曝量・その他放射線に関する情報は、日本放射線学会ホームページ及び
   同学会雑誌(2004)を参照させていただきました。




                         
筆者:吉國友和
アスベスト検診