COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease
     (シー オー ピー ディー)    

   COPDとは慢性閉塞性肺疾患(肺気腫・慢性気管支炎)の略語です。

    ※このページは主に日本呼吸器学会より発行されました「COPD(慢性閉塞性肺疾患)
     診断と治療のためのガイドライン」を参考に作成しました。


    COPDとは、肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を生じる病気です。
    これまで肺気腫・慢性気管支炎と呼ばれていた病気の多くは、現在このようにCOPDと
    呼ばれます。


   (注)気流制限:気管支の狭窄・閉塞などにより、呼吸をする際の空気の流れに制限が
      生じること



1、疫学調査
  1960年以降、タバコの販売・消費量が増加するに従い、これに遅れること20年で
  「慢性気管支炎、肺気腫」の死亡率が増加しています。
  2000年にはCOPD:慢性閉塞性肺疾患が日本人の死亡原因の第10位になりました。
  (男性:第8位(9,665人)、女性:第14位(3,398人))
  約530万人(40歳以上)がこの病気に罹患していると考えられています。


2、原因
  ① 喫煙(確実に影響があります)
   COPD患者さんの90%近くは喫煙者です。禁煙をしたとしても、それまでに喫煙の
   影響で受けた肺機能は元には戻らず、しかも健康な方と同じ程度に肺機能は少しずつ
   衰えていきます。このため、それまでの喫煙の影響が大きいほど、禁煙をした場合で
   あっても加齢に従って病気は少しずつ進行していきますので、できるだけ早いうちに
   禁煙をすることは非常に大切です。

   喫煙について
    実は必ずしもすべての喫煙者がこの病気になるとは限りません。これまでの調査で
    同じ本数・年数喫煙を続けていたとしても、COPDになりやすい方とそうでない方が
    いらっしゃることが判明しています。ただし、喫煙がCOPDに大きな影響を与える
    ことには変わりありません。

  ② 大気汚染(影響があることもあります)
   大気汚染もCOPD発症・死亡率に関連することがわかっています。例えば、公害により
   硫化酸素濃度が上昇した地域では、それまで(20年前)と比較して慢性気管支炎や
   気管支喘息の死亡率が上昇し、逆に大気が浄化されるに従って死亡率も低下したという
   報告があります(国内)。
   海外では、室内調理燃料使用による室内空気汚染と、調理に従事する女性COPDの
   関連性が指摘されています。

  ③ 感染症、その他(影響については不明なことが多いです)
   現在のところ、成人になってからの感染症そのものがCOPD発症に関わるとする報告は
   はっきりしません。ただし、小児期の呼吸器感染症により、成人になってからの肺機能
   (一秒量)低下が大きいという報告があります。欧米では、個人の社会経済的状態・栄養
   状態とCOPDに負の関係があるというデータもありますが、日本国内ではこのような
   影響があるかは不明です。
   これに関連して、アルコール摂取者における呼吸器症状・肺機能低下についての研究も
   あるようですが、現実的にはアルコール摂取時に喫煙をされることも多く、飲酒との
   関連性は不明です。

  ④ α1-AT欠損症(アルファワン-アンチトリプシン欠損症)(影響がありますが、非常に稀な疾患です)
   日本では非常に稀です。アンチトリプシンという酵素が欠乏するために、COPDや
   自然気胸の原因となることがあります。


3、症状
  慢性の咳嗽(せき)、喀痰が多い・いつも喀痰が出る、歩いた後や運動後の息切れがひどい、
  といった症状が出現します。
  息切れについては、ご本人がそれを「年齢のため」と考えられているために、医療機関で
  初めてCOPDと診断されることもあります。
  特に40歳以上長期間喫煙されている方や、職場で粉塵曝露(空気が悪い)がある方は
  要注意です。

   →この病気は早期にはレントゲンではわかりにくいこともありますので、もしこのような症状が
    ある場合には、レントゲン写真と同時に肺機能検査(肺活量)を受けることをお勧めします。


    簡単な肺機能検査(スパイロメトリー)は5分程度で行うことができます。
    肺機能検査にかかる費用は、肺機能検査の内容にもよりますが、保険3割負担では
    約660~900円前後です(初診料などは別計算です)。
    早期発見・早期治療を目指しましょう!

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 診断

  気管支拡張剤の吸入後であるにも関わらず、肺機能検査で気道閉塞を疑う所見のある場合に
  COPDと診断されます。(他の疾患と区別を行うために、レントゲン写真も必要です。)
  この他必要に応じて、動脈血ガス分析、胸部CT検査、心臓エコー検査などを追加することが
  あります。

   診断基準
    1、気管支拡張薬投与後の肺機能検査(スパイロメトリー)で
      一秒量/努力肺活量<70%を満たすこと。
    2、他の気流制限をきたしうる疾患を除外すること。
      (除外・鑑別診断)
        気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、先天性副鼻腔気管支症候群
        閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、肺リンパ脈管筋腫症
        うっ血性心不全など


  解説
   ① 気管支拡張剤を吸入すること
     例えば、気管支喘息でも気道閉塞(狭窄)が存在しますが、気管支拡張剤を使用する
     ことで、気管支喘息の気道閉塞は改善します。

     COPDでは気管支拡張剤を使用したにも関わらず、もとに戻らない気道閉塞が
     存在しますので、気管支拡張剤を吸入した後で肺機能検査を行う必要があります。

   ② 肺機能検査
     肺機能検査と一言で表現しましたが、実際には更に細分化されます。
     気管支拡張剤吸入後に行った肺機能検査のうち、一秒量を努力肺活量で除した数値
    (一秒率)が70%以下の場合にCOPDと診断します。
     ただし、肺機能検査は診断に必要な項目ではありますが、うまくできないこともあります。
     明らかに病気が存在するのに、検査では正常と判定されることもありますので、
     画像診断・全身状態を総合的に考慮して、治療方針を立てることが大切です。

      努力肺活量
       息を大きく吸い込み、できるだけ速く吐き出したときの肺活量です。
       これに対して単に「肺活量」と呼ぶ場合には、息を吐く速さはゆっくりで
       あっても、できるだけ息を多く吐き出した場合の数値を表します。
       肺活量は、同年齢・同様の体格の方の肺機能検査をもとにした基準値の80%以上が
       正常範囲です。基準値の80%未満の場合を「拘束性障害」と呼びます。

      一秒量
       息をできるだけ速く吐き出したときに、1秒間で吐き出すことのできる呼気量
       一秒量と呼びます。70%以上あるときを正常範囲として、70%未満の状態を
       「閉塞性障害」と呼びます。

      一秒率(G)
       一般的にはGaenslerの一秒率のことを指します。
       上記の一秒量を努力肺活量で除した数値です。

         例:一秒量=3リットル、努力肺活量4リットルの場合
            3リットル÷4リットル×100(%)=75%:一秒率(G)
一秒率



70% 
拘束性障害 正常  
混合性障害 閉塞性障害
80% %肺活量

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 病期分類(重症度診断)

  0期(リスク群)からⅣ期(最重症)まで分類されます。
  この病期分類に従った治療方針の目安があります。

   0期:リスク群:肺機能検査では正常(COPDと診断されない)が、
           慢性的な咳嗽や喀痰排出がみられる。

   Ⅰ期: 軽症 :① 肺機能検査で閉塞性障害を認められる。
           ② 一秒量が予測値の80%以上を保っている。
           ③ 症状の有無は問わない。

   Ⅱ期: 中等症 :① 肺機能検査で閉塞性障害を認められる。
           ② 一秒量が予測値の50%以上80%未満である。
           ③ 症状の有無は問わない。

   Ⅲ期: 重症 :① 肺機能検査で閉塞性障害を認められる。
           ② 一秒量が予測値の30%以上50%未満である。
           ③ 症状の有無は問わない。

   Ⅳ期: 最重症 :① 肺機能検査で閉塞性障害を認められ、かつ②-1,-2のいずれかを満たす。
           ②-1
             一秒量が予測値の30%未満
           ②-2
            一秒量が予測値の50%未満
             かつ慢性呼吸不全もしくは右心不全を合併している。


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 治療
  COPDでは重症化するに従って、推奨される治療が増えてきます。この方法はステップ・アップ
  方式と呼ばれます。絶対的な指標ではありませんが、初期治療を行うための目安となています。
  (反対に、気管支喘息では改善するに従って治療薬を少なくするというステップ・ダウン方式です。)
  COPDの治療では、重症度に関わらず禁煙とインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。

 1、禁煙
   喫煙者のCOPDでは絶対に必要なことです(参照:禁煙外来)。
   肺機能は加齢によっても低下してきますが、喫煙の影響を受けやすい方では、肺機能が著しく
   損なわれる危険性があるためです。

 2、インフルエンザワクチン接種
   インフルエンザワクチンは、COPD増悪による死亡率を約50%低下させることが報告されて
   います。このため、0期からⅣ期まですべてのCOPD(発症前の危険群を含む)患者さんに
   インフルエンザワクチンの接種が推奨されます。

 3、推奨される薬物療法(重症度分類による)
 ・長期酸素療法
 ・外科的治療の検討
 ・吸入ステロイド薬を検討
 (増悪を繰り返す場合)
 ・呼吸リハビリテーション
 ・長時間作用型気管支拡張薬(定期的)
 ・必要に応じて短時間作用型気管支拡張薬を使用
 
 ・禁煙
 ・インフルエンザワクチン接種
病期 0期
 リスク群 
Ⅰ期
  軽症 
Ⅱ期
 中等症 
Ⅲ期
  重症 
Ⅳ期
 最重症 
   ※外科的治療(肺容積減少手術:Volume reduction surgery)については、当院では行っていないため
          ここでは省略します。

 4、その他
   推奨される治療には含まれていませんが、様々な治療を行っても慢性的に喀痰量が多い場合には、
   マクロライド少量長期療法を行うことがあります(参照:マクロライド系抗菌薬の不思議な作用)。
   また、一部の漢方薬による治療を行うこともあります。

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 治療薬・薬剤費用について(当院採用薬のみ:保険適応による3割負担額として記載

  1. 短時間作用型気管支拡張薬(β刺激薬)
薬剤名 処方単位 1回の使用量 薬価(1本) 薬価(1吸入)
 メプチン
クリックヘラー
1本で200吸入 1~2吸入 436円 2円

  2. 長時間作用型気管支拡張薬
   ① 抗コリン吸入薬
薬剤名 処方単位 1回の使用量 薬価(28日分) 1日当たりの薬価
 スピリーバ
 (カプセル)
7日分ずつ 1吸入
(1カプセル)
1,850円 66円

   ② β刺激薬
薬剤名 処方単位 1日の使用量 1日当たりの薬価
セレベントディスカス(50) 1個(60吸入) 1日2回吸入 42円
ホクナリンテープ(2) 1枚ごとに処方可能 1日1枚貼付 34円

   ③ キサンチン製剤
薬剤名 内服時間 1日の使用量 1錠当たりの薬価 1日当たりの薬価
(※)
テオドール(200) 朝食後、眠前など
(1日2回)
2錠前後
(個人差があります)
7円 14円
(1日2錠の場合)
    ※この製剤を用いる場合には血中濃度測定により薬剤量を管理する必要があります。
     血中濃度測定を行った場合、更に追加費用が発生します(参照:薬剤血中濃度測定について)。


  3. 吸入ステロイド薬
薬剤名 吸入可能回数 使用回数例
(個人差があります)
1日当たりの薬価
(左記使用回数の場合)
パルミコート(200)
11.2mg 1本
約56回 2~4吸入 18~36円
フルタイドディスカス
(100)1ヶ
60回 2~4吸入 24~48円
キュバール(100)1本
約100回 2~4吸入 24~48円

  (4. 去痰剤:重症度分類による治療表中には含まれていません)
薬剤名 1日の内服量 1日当たりの薬価
スペリア錠 6錠 23円
ムコソルバン錠 3錠 22円
ムコソルバンLカプセル 1カプセル 26円
ムコダインシロップ 30cc 54円

  5. 在宅酸素療法(携帯用装置を含む)
     受診料などは含まれていませんが、保険適応となっても非常に高額です(下記表は3割負担額の場合)。
酸素発生方式 毎月の管理料 1日あたりの費用
酸素濃縮装置 24,000円 800円
液体酸素 22,050円 735円


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 ☆1ヶ月(28日間)あたりの薬剤費用
   受診・処方料、各種検査費用などを含まない、薬剤だけの費用です。
   薬剤費だけでも非常に高額となることがおわかりいただけると思います。


   例1 中等症COPD(スピリーバ吸入、テオドール錠・ムコソルバンLカプセル内服)

     毎月 約  2,860円(3割負担額)+受診料、薬剤管理料など
     年間 約 34,360円     (同上)


   例2 最重症COPD(在宅酸素療法:酸素濃縮装置、スピリーバ吸入、ホクナリンテープ貼付、
              テオドール錠・スペリア錠内服)
     毎月 約  27,720円(3割負担額)+受診料、薬剤管理料など
     年間 約 332,600円     (同上)

     (注)在宅酸素療法を要する重篤な慢性呼吸不全の方では、身体障害者(呼吸器)として
        認定されることがあります。この場合、様々な補助の対象となることがあります。

        呼吸器疾患単独による身体障害では1、3、4級の3等級が認定されています。
        申請には肺機能検査、動脈血ガス分析、レントゲン写真及び医師の診察による
        臨床所見の記載などが必要です。

         ※ 当院でも申請可能です。
         (身体障害者福祉法第15条による指定医師(呼吸器疾患):呼吸器科 吉國友和)

   医療費も大きな負担となりますが、やはり最もつらいのは呼吸困難の症状ではないでしょうか。
   若年喫煙者ほど、できるだけ今のうちに禁煙をすることをお勧めします(参照:禁煙外来)。


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呼吸リハビリテーション

  呼吸リハビリテーション(以下リハビリ)は大変有効なものですが、できるだけ継続して行う
  ことが必要です。肺炎などの急性期疾患が治癒した後(治療中に並行して行うこともあります)
  から行う一般的なリハビリも必要ですが、退院された後にもご自宅で引き続きリハビリを行って
  いただくことが大切です。
  ところが、実際にリハビリの指導を受けたとしても、短期間では十分なリハビリ方法を習得
  できないことや、上手くなったとしても、退院後も継続しなければ、やはり肺の機能は衰えて
  いきます。



リハビリ入院で行う検査の概略

  ① 画像診断
   レントゲン、胸部CT検査、(必要に応じて)心エコー検査

  ② 肺機能検査
    入院前後で比較することで、肺機能の変化を確認します。
    肺機能検査そのものの改善は乏しいこともありますが、リハビリテーションによって
    息切れなどの自覚症状が改善します。

  ③ 喀痰検査(細菌検査)
    喀痰中の細菌を調べます。慢性呼吸器疾患では、緑膿菌を代表とする、通常ではみられない
    細菌が観察されることがあります。

  ④ 血液検査
    一般的な血液検査に加えて、栄養状態についても詳しく評価します。
    また、通常の血液検査は静脈から採血しますが、酸素・二酸化炭素を直接計測するために
    医師により動脈からも採血します。

  ⑤ 歩行負荷試験(リハビリにおいて)
    入院直後、退院直前に歩行試験を行います。
    前後の2回計測することで、リハビリの効果を評価することができます。

  ⑥ 夜間睡眠時呼吸モニター
    夜間・早朝に呼吸状態が悪化することが疑われる場合、必要に応じて夜間(睡眠中)に
    この検査を行います。



筆者:白鯨の健康日記 吉國友和




ページ内目次
疫学・原因
症状
診断方法    肺機能検査
病期分類
治療
治療にかかる薬剤費用
薬剤費用の例
呼吸リハビリテーション



COPD