肺炎

            肺炎:ページ内目次

 肺炎の分類 概略  当科の治療方針
 1.病原体・原因    検査について
  ①細菌性肺炎 抗菌薬の種類  ① 血液検査
  ②異型肺炎    ② 画像診断
   1.マイコプラズマ 代表的な起炎菌(市中肺炎)  ③ 喀痰検査(細菌検査)
   2.クラミジア     ④ 尿中抗原
   3.ウイルス 肺炎球菌ワクチン・料金  
   4.レジオネラ    
   5.ニューモシスティス    肺炎に関連した補足事項
 2.炎症の場(実質、間質)  
 3.炎症の範囲    
 4.発症した場所    
 5.特殊な原因    

肺炎は ①急性、②何らかの病原微生物による、③肺内の炎症、と定義されます。

レントゲンでその日のうちには異常が見つからなくとも、数日間経ってから
肺炎の陰影が出現することや、炎症の部位によってはレントゲンだけでは
診断が難しい場合もあります。

肺炎の症状

 かぜ症状の他、上記のような症状が出現します。ご高齢の方では典型的な症状が
 出現しない場合もありますので、普段と体調が異なるときには要注意です。
肺炎に関する検査

 上記の検査を要します。ただし、胸部CT検査などは必要でないこともあります。
 喀痰検査・血液検査によって原因となった病原微生物(起炎菌)を推定しますが、
 確定した結果を得るまで数日間要します。
 また起炎菌の中でも肺炎球菌、レジオネラという菌は、尿から菌体の一部が検出
 されることがあり、15分で結果が判明するので特殊な検尿検査を行う行うことも
 あります。 

肺炎の治療

多くの場合は抗菌薬による治療が必要となります。抗菌薬の中でもペニシリン系、
セフェム系という抗菌薬を用いることが多いです。
ただし、若年者に比較的多いマイコプラズマという病原微生物では、ペニシリン系
抗菌薬が効果が得られないためマクロライド系、テトラサイクリン系などの
抗菌薬を用います。
マイコプラズマが原因と確定するには特殊な血液検査を初回、2週間後に行い
結果を比べることで初めて病原菌と断定できるため、初診時に有効な抗菌薬を選択
することが難しいこともあります。このため初回に使用した抗菌薬の効果が得られ
ない場合はこの菌に代表されるような特殊な病原菌を疑い、有効と考えられる抗菌薬に
変更します。
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肺炎について、更に詳しい説明
肺炎の分類

 1、病原体・原因による分類
   ① 細菌性肺炎
     普通に「肺炎」と言う場合には、この細菌性肺炎のことを表します。
     ウイルス感染症であるかぜ症候群を契機に、宿主である人間の体力・
     免疫力が低下した場合に、ウイルス感染に続いて生じた細菌感染による
     下気道(肺実質)の炎症を指します。

      細菌
       核膜・ミトコンドリア・小胞体を有さない原核生物であって、
       細胞壁を有するもの。
      ウイルス
       DNAもしくはRNAの遺伝情報を有するが、蛋白質合成
       ・糖代謝に必要な生合成代謝機構を欠くため自律的に増殖
       できず、宿主細胞内へ感染することによって増殖する。
      下気道
       空気の通り道である気道は、鼻腔~声帯~気管及び左右
       気管支~肺を指しますが、声帯より末梢(肺側)の部分を
       下気道と呼びます。
       上気道には常在菌が存在するのに対して、下気道は通常では
       無菌状態です。肺炎とは下気道、特に肺そのものの炎症を
       主とする場合を呼びます。

      細菌性肺炎では、原因となった細菌の名称を冠して「肺炎球菌性肺炎」の
      ように表現することもあります。

   ② 異型肺炎、非定型肺炎
     緩やかな発症・気道以外の臓器症状・(細菌性)肺炎と比べると喀痰が
     少ないなど、通常の細菌性肺炎とは症状・経過の異なるものを指します。
     この原因となる病原微生物としてはマイコプラズマ、クラミジア、
     レジオネラや各種のウイルスなどが含まれます(分類によっては、
     ウイルス・レジオネラは別にすることもあります)。
     臨床上の観点から、ここではマイコプラズマ・クラミジア・レジオネラに
     ついて記載します。

    ②-1 マイコプラズマ肺炎(病原微生物:Mycoplasma Pneumoniae)
      異型肺炎中、30~40%を占めるといわれています。特に学童期を中心に、
      若年者に多く、とにかく頑固な咳(喀痰の少ない空咳)が主な症状です。
      気道アレルギーにも関与があると考えられており、治療をしなくとも自然
      軽快することもありますが、時に重篤化して重症呼吸不全に陥る危険性も
      あります。治療には一般的なペニシリン・セフェム系抗菌薬は無効であり、
      抗菌薬の効かない肺炎という経過から、マイコプラズマ肺炎を疑われることも
      あります。この場合、抗菌薬はマクロライドないしテトラサイクリン系、ケトライド系、
      もしくは一部のニューキノロン系薬剤が有効です。小児では歯牙への色素沈着などの
      副反応を避けるため、テトラサイクリン系を避けてマクロライド系抗菌薬を用います。

      ☆マクロライド系抗菌薬の不思議な作用
      ☆マクロライド少量長期投与


    ②-2 クラミジア肺炎(病原微生物:Chlamidia Pneumoniae)
      マイコプラズマと同様に通常のペニシリン・セフェム系抗菌薬が奏功せず、
      マクロライド・テトラサイクリンなどの治療が有効なのが特徴です。
      マイコプラズマが若年者に好発するのに対して、クラミジア肺炎では
      比較的高齢者に多いです。症状が軽く、自然治癒することが多いようです。

      ☆疾患別にみるクラミジア

    ②-3 ウイルス性肺炎
      基本的には抗菌薬は無効です。ウイルス性肺炎の場合、インフルエンザ
      ウイルスを代表とするかぜウイルス(気道を中心に症状を起こすウイルスの
      俗称)や水痘ウイルス、麻疹ウイルスによる急性感染症の他、白血病などの
      免疫力が低下した状態で生じやすく重症化しやすいサイトメガロウイルスに
      よる日和見感染症などがあります。
      かぜウイルスによる肺炎は自然軽快することが多いですが、特に成人が
      麻疹や水痘ウイルスに罹患し肺炎を併発すると、時に呼吸不全にいたる
      場合もあります。この場合、基本的には対症療法となりますが、重症化した
      場合にはステロイドやグロブリン製剤による治療を行うことがあります。
      サイトメガロウイルスによる肺炎の場合には、グロブリン製剤の他
      ガンシクロビルという抗ウイルス剤を用います。

      水痘ウイルス
       水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster virus:VZV)
       とも呼びます。
      ステロイド
       強力な抗炎症作用を有するため、重症肺炎の際に短期間
       使用することがあります。長期間使用する場合には、
       様々な副作用に注意する必要があります。
      グロブリン製剤
       免疫グロブリン製剤、ガンマグロブリン製剤とも呼びます。
       ウイルスに対して作用し、白血球・マクロファージという
       人間の持つ免疫細胞が、ウイルスを貧食(退治)する
       手助けを行います。
       輸血によって得られる成分の1つであり、採取された製剤に
       よってウイルスに対する作用の強さ(抗体価)が若干異なる
       ため、例えばサイトメガロウイルスにより強い抗体価を持つ
       グロブリン製剤を選択することもあります。


    ②-4 レジオネラ肺炎
      温泉、循環式風呂など、水を介してレジオネラという病原微生物が感染する
      ことがあります。時に集団発生することもあります。特に、ご高齢の方では
      重症化しやすく生命に関わることもあるため、注意が必要です。
      通常の抗菌薬では効果が得られず、ニューキノロン系抗菌薬(日本では
      CPFX:シプロキサシン)の点滴投与や、抗結核薬の1つであるRFP:
      リファンピシンという薬剤を併用します。肺炎の画像上の特徴として、
      大葉性肺炎(広範な炎症像)を呈することが多く、また特殊な検尿検査から
      レジオネラ症の診断の補助になることがあります(尿中抗原検査)。

    ②-5 ニューモシスティス肺炎
      Pneumocystis jiroveciという病原体による重症肺炎です。
      これまでPneumocystis cariniiと呼ばれていた真菌に分類される病原体に
      よる肺炎です。健常人に発症することはありませんが、HIV感染症による
      後天性免疫不全症候群(AIDs:エイズ)が進行した状態、抗がん剤投与・
      臓器移植後などの免疫不全状態で見られることがあります。
      気管支鏡検査などで気管支・肺の洗浄液などから直接ニューモシスティスを
      見つけることで確定診断となりますが、この他に真菌感染症の際に、血液中に
      上昇することが多いβDグルカンという項目も診断の補助となります。
      重篤な肺炎であることが多く、治療にはST合剤ないしペンタミジンという
      特殊な抗菌薬の他、一時的にステロイド剤を併用することで炎症を抑える
      必要があります。

      ☆ニューモシスティス
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 2、炎症の場による分類
   ① 実質性肺炎
     一般的な肺炎は肺胞(空気の交換の場)で生じます。実質性肺炎と表現すること
     は少ないのですが、次の間質性肺炎との比較のために用語を記載しました。
     気道を経由して細菌が肺胞内に進入し感染を生じた結果、白血球や肺胞マクロ
     ファージと呼ばれる免疫(炎症)細胞が細菌を退治しはじめます。この戦いの
     結果、細菌や炎症細胞が喀痰として多くなります。このため喀痰中に炎症を
     起こした細菌が見られ、中には細菌を食べている最中の炎症細胞(貧食像:
     どんしょくぞう)が見られることもあります。

   ② 間質性肺炎
     通常の肺炎が肺実質の生じるのに対し、肺胞と肺胞の間である肺胞(隔)壁
     など、間質と呼ばれる部位に生じる肺炎です。肺胞内の炎症である細菌性
     肺炎と異なり、気道内に直接炎症細胞が出現しないため喀痰の量はあまり増加
     しません。通常見られる間質性肺炎は、両側肺の下部に出現し何年もかけて
     徐々に進行することが多いです。症状としては、喀痰の少ない乾性咳嗽
     (からぜき)や息切れなどが見られます。進行すると、「ばち指」という、
     太鼓のバチのように指先が膨らんでくることがあります。

      ばち指
       指を横から水平に見たとき、爪の付け根と指の境はくびれている
       のが通常ですが、ばち指ではくびれが見られなくなってきます。
       (108°以上)
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 3、炎症の範囲による分類
   ① 気管支肺炎
     近年見られる肺炎はほとんどこちらです。②の大葉性肺炎に対して、比較的
     狭い範囲の肺炎を表します。
   ② 大葉性肺炎
     右肺は3つ、左肺は2つの肺葉と呼ばれる単位に解剖学的に分けられます。
     肺葉1つ以上を占める広範な肺炎を大葉性肺炎と表現します。無治療で経過
     されてきた場合や、特殊な原因菌であるレジオネラ感染症の際に見られることが
     多いです。

      ☆大葉性肺炎を診た場合
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 4、発症した場所による分類
   ① 市中(市井:しせい)肺炎
     病院外で発病した肺炎であり、病院外から入院48時間未満に発症したものを
     指します。肺炎は、ごく初期には陰影が出現しないこともあるため、入院時に
     レントゲンで異常が見つからなくとも、翌日ないし翌々日に肺炎の陰影が出現
     することがあります。

   ② 院内肺炎
     入院後48時間以上経過して発症した肺炎を指します。寝たきり状態の方に
     多い誤嚥性肺炎や、免疫不全状態で生じる特殊な感染症(サイトメガロ
     ウイルス、ニューモシスティス)などによる肺炎で、重篤なことが多いです。

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 5、特殊な原因による分類
   ① 薬剤性肺炎
     近年抗がん剤の一種であるゲフィチニブ(イレッサ錠)による薬剤性(間質性)
     肺炎が話題となりましたが、抗がん剤の他、ほとんどすべての薬剤で生じる
     可能性があります。
   ② 放射線肺(臓)炎
     肺癌等に対する放射線による肺炎です。放射線照射を行った部位に一致して、
     炎症を生じます。特に放射線治療を終了して数ヶ月経ってから発生することが
     多いです。
     自然治癒することがほとんどですが、難治性の場合ではステロイド剤を用いて
     治療を行うこともあります。

   ③ 過敏性肺(臓)炎
     古くなった日本家屋では特殊な真菌(カビ)が繁殖し、その真菌を吸入した
     ことで生じるアレルギーによる肺炎です。同居する家族に発症することも
     あります。胸部CT検査で特徴的な所見を呈しますが、やはり問診により生活
     環境(住居)を確認することが大切です。
     この肺炎では、軽症であれば病院に入院するだけで(原因となる状況から隔離
     するだけで)自然治癒します。呼吸状態によっては、ステロイド剤を用いて
     治療を行います。

      ☆肺炎と肺臓炎

   ④ 誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)
     脳梗塞後遺症、加齢、半回神経麻痺(喉頭放射線治療、甲状腺術後、大動脈瘤
     など)、逆流性食道炎、経鼻胃管留置など、嚥下が上手くできない状態が
     あった場合、食事の際もしくは胃酸逆流などを伴い口腔内の雑菌が気管内部に
     入り込んでしまい、肺炎を起こすことがあります。特にご高齢の方では非常に
     多く、治療を行っても繰り返すことがあります。
     再発防止には、食後少なくとも30分以上は横にならない、嚥下訓練などが
     ありますが現実的には完全に予防することは非常に難しいです。繰り返す場合
     には、内視鏡による手術として、腹部に穴を開けて胃に直接流動食を流す処置
     (内視鏡的胃ろう造設)や外科的にのどの所を切開する処置(気管切開:
     気管内にチューブを挿入し上部からの誤嚥を防止する)などの処置が必要に
     なります。
     こういった処置は延命的な意味合いを持つことも多いため、処置を希望
     されずに自然の経過にまかせ、天寿を全うされる方も多いです(尊厳死)。

   ⑤ 膠原病肺(Collagen lung:コラーゲン・ラング)
     関節リウマチ、全身性強皮症、シェーグレン症候群(乾燥症候群)のような
     膠原病が存在すると、疾患に関連して肺病変を伴うことがあります。間質性
     肺炎に似た像を示しますが、原因・経過などが異なることから膠原病肺と
     表現することがあります。

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検査について
 ① 血液検査
   白血球数・CRPという項目が炎症を示します。細菌性肺炎では白血球数が上昇
   することが多く、異型肺炎では白血球数は正常範囲内であることが多いです
   (両者とも絶対ということはありません)。
   マイコプラズマなどの特殊な感染症では、肝機能検査(GOT・GPT)が上昇
   することがあります。この他、腎機能(BUN・CRE)などにより、脱水の有無
   及び治療に用いる薬剤投与量を調節します。

   特殊な血液検査
    抗体検査:マイコプラズマ、クラミジアなど
     異型肺炎の原因となるマイコプラズマ、各種ウイルスが感染した場合に、人間の
     持つ免疫力が作用しそれらに対する抗体という物質を作り出します。この作り
     出された抗体を調べることによって肺炎の原因となっている病原微生物を特定
     します。各種病原体に対する様々な抗体が存在しますので、必要と考えられる
     抗体を調べる必要があります。
     抗体検査では、原則としてペア血清をもって確定診断となります(単独の検査で
     あっても、異常高値の場合にはそれだけで確定診断となることもあります)。
     ※風邪の原因となっているウイルスを調べることも可能ですが、原因ウイルスの
      種類が多く、また自然に治癒する病気ですので、合併症のない限り調べる
      ことはありません。
      一時期ノロウイルスが騒がれましたが、これも本来は検査する必要性の
      乏しい、かぜ症候群のウイルスの一種です。

      ペア血清
       発症1週間以内の抗体価(抗体の強さ)、更に2週間経過した後の
       抗体価を比較して、4倍以上の差があれば確定診断となります。
       この2回計測した血清をペア血清と呼びます。
        例;マイコプラズマ抗体
           初診時:4倍 →→→ 2週間後:32倍
        マイコプラズマ肺炎では2週間以内に治癒することが多いため、
        完治した場合などのように、必要性がなければペア血清を測定しない
        こともあります。

 ② 画像診断
   レントゲン・胸部CT検査などがあります。
   発症早期には肺炎の陰影が出現しないことや、治療後もしばらく陰影が残存する
   ことがあります。このため治療期間は、臨床症状・血液検査などをあわせて総合的に
   判断します。

      ☆肺内は空気で満たされており、肺炎のためにMRI検査を行うことは通常ありません。
       胸部のMRI検査を行う場合は、肺癌が血管内部に入り込んでいないかを
       精密に調べるためなどです。

 ③ 喀痰検査(細菌検査)
   一般細菌にはグラム染色という染色方法を用います(結核菌では別の検査が
   必要です)。喀痰中細菌貧食像を確認することや、含まれている細菌を培養し、
   どのような細菌が肺炎の原因であり、またどのような薬剤が有効であるのかを
   最終的に判定するには5日間前後の日数を要します。
   このため肺炎では、原因微生物を推定し、有効と考えられる薬剤を医師が判断して
   治療を開始します(Empiric therapy:エンピリック セラピーと呼ばれます)。

   一般的なグラム染色では、マイコプラズマ、クラミジア、ニューモシスティス、
   レジオネラ及び結核菌を代表とする抗酸菌群は染色されないため、
   これらの病原微生物が感染症の原因と疑わしい場合には、別に検査を追加する
   必要があります。

      貧食像
       喀痰中には炎症の原因となった細菌の他、口腔内の雑菌など、
       正常な状態でも存在する常在菌という雑菌群が見られます。
       肺炎の場合には
        ①喀痰中の細菌数が10の7乗を超える場合(極端に多い)
        ②炎症細胞に貧食されている像が確認された細菌
       を原因菌と特定できます。
       細菌数は喀痰の採取方法や検査方法によっても差が生じますが、
       この貧食像を確認することができれば、ほぼ確実に肺炎の原因で
       ある、といえます。

 ④ 尿中抗原:肺炎球菌、レジオネラ
   レジオネラ肺炎などの項目でも示していますが、この2種類の病原体に関しては、
   検尿検査による迅速診断(15分間)が可能です。
   陽性であっても陽性でない(偽陰性)、陰性のはずなのに結果は陽性(偽陽性)と
   なることもありますので、この検査だけで原因菌と断定することはできません。
   特に肺炎球菌による肺炎では、この検査により初期治療薬を選択する、大きな
   参考所見となります。

     ☆肺炎球菌尿中抗原の診断率
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(参考)抗菌薬の種類
   「抗生剤」と呼ばれることがありますが、これは正しい表現ではありません
   (感染症治療の雄、長崎大学熱研内科:永武教授の講義より)。
    放置されたある真菌(カビ)の周囲に細菌が繁殖しておらず、このことの原因と
    して、フレミングは真菌が何らかの物質を産生し、この物質が細菌の繁殖を
    阻害しているのではないかと考えました。この物質が20世紀最大の発見である
    抗生物質ペニシリンです。
    このように本来は「微生物が産生する物質」であり、「他の微生物の繁殖に
    何らかの影響を与える物質」を「抗生物質」と呼びます。近年では、
    ニューキノロン系薬剤のように、化学的に合成された抗微生物薬も存在すること
    から、まとめて「抗菌薬」と表現することもあります。

  ① ペニシリン系
  ② セフェム系    ①と②をあわせてベータラクタム系とも呼びます。
  ③ マクロライド系
  ④ テトラサイクリン系
  ⑤ ペネム系
  ⑥ カルバペネム系(ペニシリン系から作られた系統)
  ⑦ リンコマイシン系
  ⑧ ホスホマイシン系
  ⑨ ニューキノロン系
  ⑩ ケトライド系
  ⑪ アミノグリコシド系
  ⑫ その他多種

 作用機序では
  ベータラクタム系:細胞壁合成阻害
  マクロライド系:蛋白合成阻害
 などのように、各系統によって細菌に働きかける作用法が異なります。

                                ページトップに戻る

代表的な起炎菌(市中肺炎で多いもの)
 ① 肺炎球菌  Streptococcus pneumoniae:全年齢層に多い
   グラム染色で濃染される双球菌→GPC(Gram-positive cocci):グラム陽性球菌
   細胞壁を有するのでβラクタム剤が有効だが、ペニシリン耐性菌が増加している。

   PRSP,PISP,PSSP:ペニシリン耐性、中等度耐性、感受性肺炎球菌
   感受性:抗菌薬に対する反応性(有効性)。
        PSSPについては、「ペニシリン感受性肺炎球菌」と呼ばれることもあり、
        このように記載していますが、本来は「ペニシリン感性肺炎球菌」と訳すべきかと
        思います。
        PSSP:Penicilin sensitive Streptococcus pneumoniae

 ② インフルエンザ菌  Haemophilus influenzae 
   グラム染色で淡く染色される、多形性を有する桿菌→GNC(Gram-negative rods)
   インフルエンザウイルスが発見されていない時代に、インフルエンザの原因として
   考えられたためインフルエンザ菌と名前がつけられました。インフルエンザウイルス
   とはまったく異なる細菌です。細胞壁を有するのでβラクタム剤が有効です。

 ③ マイコプラズマ  Mycoplasma pneumoniae
   細胞壁が存在しないため、βラクタム剤が無効。

 ④ 肺炎クラミジア Chlamydia pneumoniae
   細胞壁が存在しないため、βラクタム剤が無効。クラミジアは他にも様々な種類が
   あり、呼吸器領域ではオウム病(Chlamydia psittaci)なども問題となる。

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当科の治療方針について
 従来の入院治療は抗菌薬点滴を行うが、その投与期間について特に決まりはありません
 でした。(例えば炎症反応の指標であるCRPが1以下になるまでといった、根拠のない
 目安。)ある報告によると、この方法での治療期間は平均11日間、医療費も約30万円
 程度かかるようです。これに対して、抗菌薬点滴に改善傾向となった場合、速やかに
 経口内服薬に変更する治療をスイッチ療法と呼び、当科でもクリニカルパスを併用した
 治療では、入院期間4から7日間を目標としています。
 (医療費については別ページ参照

 肺炎に対する抗菌薬投与期間の目安は確率されていませんが、①解熱、②白血球数正常、
 ③胸部X線写真で増悪のないこと、(④CRP10未満)などをクリアーしていれば、
 投与中止ないし内服薬にスイッチ可能とする方針があります。

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肺炎に関連した補足事項

   ☆疾患別にみるクラミジア
    ①クラミジア・ニューモニア(上記に示した異型肺炎)
    ②クラミジア・シッタシ(オーム病:鳥類の排泄物→人へ飛沫感染)
    ③クラミジア・トラコマティス(新生児クラミジア感染症、トラコーマ
     :慢性角・結膜炎)
    このように、疾患毎に病原体となるクラミジアは異なります。

   ☆大葉性肺炎を診た場合
    レントゲンや胸部CT検査で広範な大葉性肺炎と診断した場合、原因として必ず
    レジオネラを考える必要があります(肺炎の原因として多い肺炎球菌による肺炎でも
    同じ像を示すことがありますので、断定はできません)。
    レジオネラ感染症は水を介して感染を生じることが特徴的で、①温泉旅行に行った
    ことがあるか、②使用している風呂は循環式入浴風呂ではないか、を確認します。
    診断の補助として、肺炎球菌・レジオネラともに尿中抗原検査による迅速検査が
    有用です。

   ☆ニューモシスティス・カリニ(現在の正式名称はPneumocystis jiroveciです)
    気管支洗浄液や直接カメラにより採取した痰を、グロコット染色という特殊な
    染色法により菌体を染色し、顕微鏡で確認する必要があります。通常は行わない
    特殊な染色方法のため、この病気を疑って検査をしなければ確定診断ができません。

   ☆肺炎球菌尿中抗原の診断率
    肺炎患者の尿中及び髄膜炎患者の髄液中の肺炎球菌莢膜共通多糖抗原
    (C-polysaccharide)の迅速検出法。
    感度 80.4%   特異度 97.2% (肺炎球菌肺炎、日本内科学会誌)
    感度 82%    特異度 97%  (肺炎球菌性菌血症、英国)
   (注)感度とは陽性を正しく陽性と判定する率、特異度とは陰性を正しく陰性を
      判定する率のことです。

    肺炎球菌尿中抗原の注意点
     小児で鼻咽頭に肺炎球菌を保有している場合や、肺炎球菌性肺炎治療後数週間は
     尿中抗原が陽性となることがあります。

   ☆肺炎と肺臓炎
    近年では肺臓炎という語句を使用していない教科書もあるようです。
    肺胞実質の炎症よりも、主に間質に強い炎症を起こすことの多い特殊な肺炎に
    対して肺臓炎という病名をつけて区別をします。
    (放射線肺臓炎、過敏性肺臓炎など)

   ☆マクロライド系抗菌薬の不思議な作用
    マクロライド系抗菌薬の常用投与量では殺菌できない、耐性を持ったマイコ
    プラズマが見つかっています。ところが、この抗菌薬が効果を得られないはずの
    耐性マイコプラズマが分離された症例であっても、マクロライド系抗菌薬が
    有効であったという報告があります。
    実は、この系統の抗菌薬は免疫を調節する働きがあることがわかっており、
    報告された症例では殺菌効果はなかったものの、気道免疫反応(アレルギー)
    を調節することで治療につながったと考えられました。
    近年では慢性副鼻腔炎、一部の慢性気道炎症疾患などにも、このマクロ
    ライド系抗菌薬の有する免疫修飾能を用いた治療法が取り入れられています。
    最近では、ケトライド系抗菌薬においても同様の抗炎症作用を有することが
    確認されています(2006.4.New England Journal)。
    このデータは気管支喘息において集計されたものですが、臨床上の有用性に
    ついては現時点では不明です。

   ☆マクロライド少量長期投与(療法)
    抗菌薬を用いる場合には必要十分な量を、できるだけ短期間用いることが通常の
    考え方です。ところがマクロライド系抗菌薬では、通常用いる量の半分から
    3分の1という少量、かつ長期間(数ヶ月以上)用いるといったマクロライド少量
    長期療法という治療法が確立されています(工藤翔二先生による治療法の確立)。
    この治療法は、それまで難治性で若年死亡の多かった「びまん性汎細気管支炎:
    DPB」の標準治療となり、この病気の予後(平均余命)を劇的に改善しています。

   ☆肺炎球菌ワクチン(商品名:ニューモバックス)
    医療機関によっても差がありますが、市中肺炎の約30%が肺炎球菌という病原体です。
    この肺炎球菌に感染した場合に、重症化を防ぐワクチンがあります。すべての肺炎に
    有効というわけではありませんが、肺炎球菌による肺炎は重症化することもあり、
    基礎疾患のある場合などでは接種が勧められます。脾臓摘出後など、一部の例外を
    除いては保険が適応されず、全額自己負担となります。
    肺炎球菌ワクチンの効果持続期間は約5年間とされており、2009年秋より再接種が
    可能となりました。

   2017.4.8 防府市内のクリニック例
     製剤名
      ニューモバックス   7,000円
      プレベナー      10,000円

    公費負担のある場合の自己負担額(65才から5才毎、防府市の場合)
      ニューモバックス   2,780円



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筆者:白鯨の健康日記 吉國友和