白鯨の健康日記 筆者:吉國友和  update:2010.3.30 
           

その1:50代の7割がピロリ菌に感染

その2:ピロリ菌の除菌法

その3:ピロリ菌除菌とペニシリンアレルギー



慢性胃炎、胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍……従来、ストレスが要因とされてきた病気ですが、ピロリ菌の感染が大きく関わっています。ピロリ菌に感染していると再発することも多く、時には胃癌を合併することもあります。今回はピロリ菌による消化器疾患と、その治療法についてまとめてみたいと思います。

50代の7割がピロリ菌に感染
健康に見える胃の中にもピロリ菌が存在することがあります

一般的な細菌(バイキン)は、強い酸性環境である胃・十二指腸の中で生育することはできません。こうした過酷な条件下でも生き残ることができるのが、結核菌のような酸に強い抗酸菌、そして胃潰瘍の大きな原因であるHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)、いわゆるピロリ菌です。

ピロリ菌に感染すれば絶対に胃潰瘍に至るということでなく、むしろ無症状ないし軽症の炎症(胃炎など)だけで経過することのほうが多いです。感染した人のうち、およそ7割が無症状で経過するとも言われています。しかし、感染した人のうち、2~3%が胃・十二指腸潰瘍となり、かつて日本人に最も多い死因であった胃癌の発生率も上昇させると考えられています(すでに胃潰瘍になった部分からは、70~80%でピロリ菌が検出:次の項目に詳細)。

胃潰瘍や胃癌の他にも後述するような様々な疾患へ関わっていると疑われることから、積極的に除菌すべきという意見も強くなってきました。

なお、ピロリ菌の感染経路は、食物などと一緒にクチから菌が入ってくるという、経口感染(けいこうかんせん)と考えられています。日本では、昭和30年以前に生まれた人の70%以上にピロリ菌が感染しており、若年者でのピロリ菌感染例は少ないという研究報告があるのですが、これは戦後に上下水道の整備を初めとする、衛生環境の改善によるものと考えられています。


ピロリ菌が関わる病気
ピロリを除菌することで胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発率を低下することができます

病変部を調べると、胃潰瘍では6~8割、十二指腸潰瘍では9割もの確率でピロリ菌が検出されます。こうしたことから、胃潰瘍や十二指腸潰瘍はピロリ菌による感染症そのものであり、かつて原因とされてきた胃酸過多・ストレス(肉体労働や睡眠不足を含む)・タバコ・コーヒー・香辛料などは、病気を悪化させる危険因子に過ぎない、と考えられるようになりました。

このため、「抗生物質によってピロリ菌を殺菌(滅菌・除菌)してしまえば、消化管潰瘍は再発しなくなるのではないか」と考えられるようになり、これを裏付けるデータが次々と発表されました。統計的な裏付けのされた胃潰瘍も含めて、ピロリ菌が感染していると判明した場合に、絶対に、もしくはどちらかといえば除菌したほうがよいとされる病気には、次のようなものが挙げられます。

  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胃に発生するリンパ腫の一種(低悪性度胃粘膜関連リンパ組織リンパ腫)・・・MALToma(マルトーマと称されます)
  • 萎縮性胃炎(なるべく早期のうちに)
  • 胃ポリープ(過形成ポリープと呼ばれるもの)
  • 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後


この他、除菌の意義が検討されている病気として、胃食道逆流症(GERD)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、慢性じんましん、鉄欠乏性貧血、ギラン・バレー症候群、虚血性心疾患などがあります。除菌することによって、どの程度の有効性があるかは更に検討する必要があると思いますが、ピロリ菌感染者では胃癌の危険性が5~10倍にも及ぶとも言われていますので、除菌について検討する価値はあると考えられます(注意:除菌後であっても、胃癌を発症することはあります)。


次のページでは、ピロリ菌の除菌療法についてご説明します。


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