白鯨の健康日記 筆者:吉國友和  update:2010.2.23 
           

黄砂が降った翌日に症状が悪化するのは?


その1:黄砂に含まれる有害物質
その2:咳、ぜんそくが悪化する理由
その3:黄砂と花粉の共通点


黄砂の降ったその翌日、咳や喘息が悪化するのは?
咳・くしゃみ
咳やくしゃみ、風邪かなと思っていると、実はアレルギーだったということも

「黄砂が降った翌日に喘息のために病院を受診」

前ページに記載したように、黄砂に含まれる様々な化学物質や微生物がきっかけとなって、鼻や気道の粘膜に悪影響を及ぼすことは想像に難くありません。直接的な刺激による炎症が引き起こされ、更には防御反応が過剰に高まった結果としてアレルギー反応が生じることが鼻水・咳などの呼吸に関連した部位に基づく症状が出現する大きな理由となっています。

では、なぜ黄砂の降った当日ではなく、その翌日なのかということですが、喘息という病気がもともとアレルギーに関連することが大きな理由と考えられます。

アレルギー反応は、ローマ数字でⅠ(1)型からⅣ(4)型にまで分類されますが、気管支喘息はこのうち1型と3型反応が大きく関わっています。黄砂と喘息の関係には、3型反応が大きな役割を果たしているのではないかと考えています(以下、私見です)。

その中でも1型は即時型反応とも呼ばれ、スズメバチのアナフィラキシー・ショック、食物アレルギーなどで有名です。原因となる物質(アレルゲン)への暴露から15分以内、遅くとも30分以内にIgEというアレルギー反応を生じる物質が免疫細胞から急激に放出されることによって症状が出現することが特徴です。花粉症もこの1型反応に基づくアレルギーです。黄砂の中に含まれる物質によっては(花粉症の季節と重なる場合もあります)、この反応によって比較的急速に鼻水などの症状が見られることも考えられます。

これに対して3型反応は、1型反応に比較すると時間のかかる免疫細胞の反応を介して生じるため、アレルゲンへの暴露から、8~10時間以上ぐらい経ってから症状が現れます。お昼を過ぎて黄砂を吸いこんでから半日後、もともと喘息は冷気などの関係で夜間から早朝に悪化する傾向がありますから、深夜から咳や息切れなどの症状が悪化するために、結果として黄砂の降った日ではなくその翌日に(あるいは深夜)、救急外来・医療機関を受診されるのではないかと考えています。


なお、喘息発作時には気管支拡張剤の吸入、ステロイド剤の短期間投与を代表とする治療が一般的ですが、内服や注射のように全身へ移行するステロイド剤を用いるのは、この3型アレルギー反応(アルサス型:Arthus反応、とも呼ばれます)を抑えるためというのが大きな理由です(※)。


(※)重症のアレルギー反応で、喘息症状を示すことのあるアナフィラキシー・ショック時にも、ステロイドを全身投与することが多いです。アナフィラキシー・ショックでは、一時的に症状が軽快した後に再度悪化する反応(二相性反応)が起きることがあり、この二相性反応はステロイドによっても抑えることはできない、という報告が多いようです。ただし、アナフィラキシー・ショックは1型アレルギーの関与が大きく、気管支喘息の発作ではステロイドが不要、ということではありません。

ちなみに、アナフィラキシー・ショックの際には、症状が出現してから、できるだけ早い段階でアドレナリンを筋肉内に注射すると、救命率を高めることができ、二相性反応が生じる危険性も低下すると考えられています(参考:スズメバチのアレルギー)。


花粉症と黄砂、関連はある?

黄砂の観測される春、アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎、いわゆる花粉症の季節でもあります。花粉症も同じアレルギー性疾患ですが、こちらは1型(いちがた)の即時型反応が病態です。黄砂については、3型反応が主体と考えられる気管支喘息とは、アレルギーを起こす細胞そのものが異なりますので、黄砂のために花粉症の症状が悪化する、ということは、ほとんどないと思います。

ちなみに、スギ花粉の大きさは20~30μmぐらい、ペクチン(多糖類)や蛋白質で構成されています。本来のアレルギーとはこうした蛋白質が体内で分解されたペプチドに対して生じる、過剰な免疫反応を指します。

次のページでは、黄砂の対策についてご説明します。


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