白鯨の健康日記 筆者:吉國友和  update:2009.11.14 
           

新型ワクチン接種後のインフルエンザ発症


その1:患者背景
その2:臨床経過
その3:考察


考察
内服薬
インフルエンザに対する薬剤は、ウイルスをすべて失活化するものではありません

まず、今回のインフルエンザが新型であるのか、あるいは従来の季節性インフルであるのかは、一般的な医療機関での検査では断定することができないため、この考察そのものも医学的には十分なエビデンス(証拠)に基づくものではないことを注記しておきます。ただし、市内の感染状況を考慮すると、新型インフルエンザが疑わしいと考えられます。これを前提として次のようなことを考えました。考察というよりも、「感想」と言うべきかもしれません。

≪客観的事実≫
インフルエンザワクチンは、「発症を予防するためのものではなく、重症化を防ぐことが目的」と考えられている(※1)。また、今回の新型ワクチンの臨床試験では、接種から3週間後に約70%以上の接種者(※2)で抗体価が上昇することが確認されている。今回の発症は、ワクチン接種から3週間後、喘息症状を併発されていた。


(※1)例外的に老人保健施設のように集団生活を送る場合には、職員を含めて100%の人が接種することで予防効果も期待
(※2)20~59歳の健康な成人を対象とした試験。接種前・接種3週間後(1回接種)を比較した場合、新型インフルエンザに対する抗体は98人中72人(73%)で上昇したという。なお、この試験では2回接種でも98人中70人(70%)と同等の結果であったとのこと。


ワクチンの発症予防効果なし(簡単なまとめ)

ワクチンを接種したが、3週間後に新型インフルエンザに罹患。基礎疾患を有する比較的ハイリスクな患者さんであったが、生命に別条もなく経過された。しかし、インフルエンザ感染にぜんそく発作が悪化した(基礎疾患の気管支喘息は軽症で、今回は数年ぶりの発作)。このことから

ワクチンは・・・発症そのものを防ぐことはできなかった(発症予防効果なし
ワクチンは・・・喘息発作を併発されていたが、生命に影響を与えることはなかった。
         ワクチンによって重症化を防ぐことができたといえる・・・のか?


・11月26日加筆
10月に新型インフルエンザワクチンを優先接種した医療従事者で、インフルエンザを発症した例をすでに2例経験しました(2名とも基礎疾患に気管支喘息があり、インフルエンザ発症した際に喘息発作を併発)



ワクチンの効果があったのか? アレルギー(アナフィラキシー)・副作用は?

今回は新型ワクチン接種からまさに3週間後の感染であったことから、一般的な季節性インフルエンザワクチンの効果も踏まえた上で、当該患者さんにおいてはワクチン接種から抗体価上昇までの期間は十分であると考えて差し支えないが、接種前後の血液検査は行われておらず、実際の抗体価上昇の判定は不可能(※3)。つまり、ワクチンを接種したことで免疫力が高まったのかを個別に判定することはできない(臨床試験等で、事前に検査をしておかない限り)。


 (※3)新型ワクチンの臨床試験対象者は20~59才、基礎疾患のない人であるため、当該患者さんのように基礎疾患を有する人に対してのデータは不足していることも問題。


今回のように、ワクチンを接種していたにも関わらず、インフルエンザに罹患されたのは事実ではあるが、これは前述のように「ワクチンは発症そのものを抑制するものではない」という従来の考え方に矛盾するものではない。


そこで、最も着目すべきなのは「新型ワクチンを接種したからこそ、重症化(死亡)を防ぐことができたのか」ということ。今回の症例は、基礎疾患に高血圧や気管支喘息といった危険因子を有する患者さんであり、発症時に肺炎や脳症を疑う症状は乏しく、全身状態は比較的良好であったが、発熱の出現前後から喘息症状を併発されていた。このことから、ワクチンの効果については、次の3つの考え方がある。


① 喘息症状の悪化こそ見られたものの、生命そのものに影響を与えることはなく経過された。これは「ワクチンによってこの程度ですんだ(ワクチンの恩恵)」という考え方もあるかもしれない(ワクチンの好ましい作用?)

② ワクチンを未接種であった場合、現在よりも重症化されていたのであろうか? もしかしたら、接種をしてもしなくとも、同様の経過をたどったかもしれない (ワクチンが薬にも毒にもならなかった?)

③ ワクチンによって活性化した新型ウイルスによる免疫反応が、実際のウイルス感染によって必要以上に免疫反応を起こしたのではないか(過剰反応・アレルギー反応)という疑問。このために、ここ数年症状のなかった気管支喘息が一時的に悪化し、発作に至ったのではないか?(ワクチンがむしろ有害であった?)


(※総括)
当然のことですが、今回の1例だけで「ワクチンの効果」を問うことはできません。同様の基礎疾患を有する人がワクチンを接種した場合とそうでない場合、経過に違いが生じるのかを大規模な統計をとることによってワクチンの有効性が明らかになります。今回の新型ワクチン、積極的に接種すべきという意見が大きいようですが、少なくとも過剰な効果を期待するのは避けるべきかもしれません。医療従事者に対するワクチン優先接種後にインフルエンザを発症した例が勤務先の病院だけでも少なくとも2例あります(11月26日現在)。


今回の情報公開につきまして、多大なご協力をいただきました当該患者さんである病院検査技師さん(名前やイニシャルは非公開です)に深謝いたします。



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