白鯨の健康日記 筆者:吉國友和  update:2010.4.21 
           

犬にかまれた時の治療


その1:イヌに噛まれた時の応急処置

その2:破傷風の予防(ワクチン・グロブリン)

その3:狂犬病ワクチン、ミルウォーキー・プロトコール



狂犬病ワクチンの対象は?
牛の絵
狂犬病という名前の通り、主にイヌに感染していますが、牛やネコなど、様々な哺乳動物に感染した例が報告されています

ヒト・イヌともに、狂犬病の発症は1956年から現在まで国内でイヌに咬まれて発生したという記録はありません(2006年、海外滞在中にイヌに咬まれ、帰国後発症して2名の方が亡くなられています)。

ただし、国内での発症がゼロとはいえ、狂犬病ワクチンを接種していない飼い犬・野犬も存在しますし、狂犬病はイヌに限らず、ネコ・キツネ・ウサギ・ネズミなど、ほとんどすべての哺乳類に感染するとウイルスです。海外からの持ち込まれる様々な動物を介してウイルスが国内に入り、国内の動物に感染をしないという保証もないわけです(2006年、ニューヨーク市内でヒトを咬んだネコから狂犬病ウイルス検出)。

こうしたことを踏まえると、現時点では国内のイヌに咬まれて狂犬病を発症する可能性は限りなく低いため、イヌに咬まれた場合に狂犬病ワクチンが必須とは言えません。しかし、将来も同じことが言えるとは限らないのです。

恐水症状に対する誤解(?)

私自身は狂犬病に遭遇したことがありませんので、以下に示すのは伝聞によって得た情報です(医学的根拠が確認できない情報もあります、ご了承ください)。ウイルス学を専門とされている先生(故人)から伺ったお話ですが、

「狂犬病にかかったイヌを、(症状だけで)普通のイヌと見分ける方法なんて、存在しない。」

ということでした。一般的にも有名なのが、攻撃性・よだれ・水を怖がる恐水症(きょうすいしょう)ですが、必ずしもすべての症状が見られるわけではないということです。また、水を怖がることについても

「狂犬病にかかったイヌは、水そのものを恐れるのではなく、水がキラキラときらめくことを嫌う(海が波できらめく様子をイメージ)。ウイルスによって神経が敏感になっているので、水に限らず、大きな音、風が吹くだけでも嫌がる」


水におびえるというイメージの強い狂犬病ですが、水そのものよりも、光の照り返しを嫌がるということでした。普通のイヌと狂犬病にかかったイヌとの区別が困難ということでしたので、海外で動物に咬まれた場合には、万が一を考えて全例に狂犬病ワクチンを接種することが望ましいかもしれません。もちろん、蔓延している地域へ赴く際には、渡航前に接種することが推奨されます。

狂犬病ワクチンの接種法
療養中
狂犬病ウイルスが蔓延している地域へ出かける際には事前にワクチンをお忘れなく

ヒトに関する狂犬病ワクチンの接種法についてですが、数回定期的に接種しなければ十分な効果が得られないこと、また、ワクチンによって得られた免疫力は年月とともに次第に低下すること、こうしたことがわずらわしいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

具体的には次の通りです(国内でワクチンを接種する場合)。

パターンA 暴露前(予防的に用いる場合)、合計3回
 ① 初回接種(皮下注射)
 ② 28日目(4週間後)に再接種
 ③ 初回接種から6~12ヶ月後に再接種

パターンB 暴露後(ウイルスに接触後、狂犬病の発症を抑えるための注射方法)
 ① 初回接種(「0日」とする)
 ② 3日に再接種
 ③ 7日に再接種
 ④ 14日に再接種
 ⑤ 30日に再接種
 ⑥ 90日に再接種

  例:1月1日に初回接種すると、3日・8日・15日・31日・4月1日に接種(最終回は目安)

何度も通院するのが苦痛かもしれませんが、暴露後だと合計6回の接種が標準です。

また、パターンCとして、以前にBの方法を行ったことのある方がウイルスに暴露された場合(咬まれた場合)、最終接種から6ヶ月以内であれば再接種の必要はないとされています。反対に、パターンAの予防接種から6ヶ月以上経ってから、ウイルスを保有する動物に咬まれた場合には、初めて咬まれた場合と同様に接種を行うこと、とされています。つまり、海外渡航前の暴露前ワクチンの効果は6ヶ月以内と考えるとわかりやすいかもしれません。


Milwaukee`s protocol(ミルウオーキー・プロトコール)

狂犬病に対する1つの治療法(プロトコール)としてMilwaukee`s protocol(ミルウオーキー・プロトコール)というものがあります。これは、麻酔薬として用いられるケタミン・ミダゾラム・フェノバルビタールを併用して脳の鎮静化を図り、同時に抗ウイルス作用を示すリバビリン・アマンタジンという薬剤を用い、体内で狂犬病ウイルスに対する免疫力が形成されるのを待つという治療法です。奇跡的に回復された症例の報告もあるようですが、狂犬病に関する治療法はいまだ確立されたものではありません。

国内ではリバビリンはC型肝炎の治療に、アマンタジンはパーキンソン病治療に用いられる薬剤です。一時、アマンタジンはA型インフルエンザの治療にも使用されていたことがあります。


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