犬にかまれた時の治療
その2:破傷風の予防(ワクチン・グロブリン)
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イヌに噛まれたら・・・ |
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外傷時の破傷風の発症を未然に防ぐには、10年ごとのワクチンの接種が有効です
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破傷風は破傷風菌(Clostridium tetani : クロストリジウム・テタニィ)による感染症です。発症すると、破傷風菌から産生される神経毒素によって、全身がひきつれて弓のように反り返るような痙攣(強直性痙攣)を生じ、重篤な場合には呼吸筋のマヒによって窒息死に至る危険性を伴います。
この菌は自然界、主に土壌中に生息しており、転んだ時の切り傷、動物に噛まれた傷口、広範囲の火傷のように、皮膚の損傷部位から感染します。菌そのものに対してはペニシリンなどの抗菌薬が有効ですが、破傷風を発症する原因である菌から放出された毒素、菌が固い膜で守られた状態で生育する状態である芽胞(がほう)には無効です。このため、発症を未然に防ぐ目的で毒素に対する抗体として破傷風免疫グロブリン、更に破傷風トキソイドを用いることがあります。
破傷風免疫グロブリン・・・血液中の毒素と結びつくことで解毒作用を示す(中和抗体)。ただし、すでに組織に結合した毒素には無効。
商品名 テタガムP、テタノブリン、テタノセーラなど(筋注用)
テタノブリン-IH(静注用)
破傷風トキソイド・・・破傷風菌の毒素を無毒化して作り出されたワクチン(不活化ワクチン)。概ね1960~70年代以前に生まれた方では破傷風に対する免疫力が不十分という文献も:1968年以前にはDPT(※次の見出し参照)の定期接種がなかった。破傷風に対する免疫力はワクチンによってのみ得られる(自然感染しても免疫力は作り出されない)ので、10年毎に追加接種することが望ましいという。
破傷風トキソイドについての補足です。破傷風トキソイドは、沈降破傷風トキソイドとも呼ばれます。小児期のDPT・DTの混合ワクチンとして定期接種が行われています。
DPT・・・D:ジフテリア、P:百日咳、T:破傷風
破傷風については、ワクチンの定期接種が3回すべて完了し(基礎免疫完了者)、かつ最終接種から5年以内であれば、犬に噛まれた場合も含めて外傷時に追加接種する必要はないとされています。しかし、5~10年以上経過した場合、あるいは基礎免疫が獲得できていない場合には、追加接種を要することがあります。
受傷時期・破傷風トキソイドの接種歴による治療方針
A 3回接種済み、かつ最終接種から5年以内
→追加接種の必要なし
B 3回接種済み、最終接種から5~10年以上
→破傷風トキソイドを1回追加接種
C 3回未満の接種、接種歴不明な場合(緊急時)、あるいは免疫不全状態
→破傷風トキソイドを以下のように接種:定期接種に準じた基礎免疫の獲得
(初年度2回、翌年1回の接種)
① 初回
② 3~8週間後に2回目
③ 12~18ヶ月後に3回目を追加接種(※)
(※)追加接種は6ヶ月以上の間隔を開けて行いますので、正確には6~18ヶ月後の接種です。ここでは標準として考えられている期間を記載しました。
破傷風は10年毎に追加接種を行うことで、発症を予防するのに十分な免疫力を維持することができると考えられています。
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