肺がん検診について

  肺癌は日本人では60~70歳代に最も多いですが、若年者の肺癌も時々
  見つかることがあります(20歳代でも報告があります)。
  もともと男性に多い病気ですが、近年は喫煙の影響からか、女性の肺癌も
  以前と比べると増えてきています。

  タバコを吸わない方でも肺癌を発症することはありますが、やはり喫煙者では
  肺癌のリスクが高く、日本人では非喫煙者に比べて約4倍以上の危険性があると
  されています。肺癌は全身の悪性腫瘍の中でも難治性のものが多く、可能な限り
  早期発見・早期治療(手術)を行うことが大切です。

  検診の内容
   1.診察・問診
     喫煙状況、家族歴(ご家族の疾患の有無)などを確認します。

   2.胸部X線写真

   3.喀痰細胞診
     蓄痰法を行います。具体的には、検査の容器を持って帰っていただき、
     翌朝(起床後)より専用の容器に痰を採取していただきます(
3日間連続)。
     採取された容器から喀痰を顕微鏡で病理専門医が確認し、癌細胞の有無を
     調べます。結果はクラスⅠ(1)からクラスⅤ(5)のローマ数字で表記
     します。
     Ⅰが正常の細胞だけが確認されたものであり、Ⅴであれば癌細胞が存在する
     ことを表します。中間のⅢは癌細胞そのものは存在しないものの、炎症を
     示す細胞が確認されることを示し、状態によっては再検査・精密検査・
     経過観察が必要となります。
     
  ここからの項目はオプション検査です。
   4.CT検診について(リンクが開きます)

   5.肺機能検査
     いわゆる肺活量の検査です。気管支喘息、喫煙者、癌の患者様では気管支が
     細くなることがあります(閉塞性障害と表現します)。検診ではシンプルな
     肺機能検査を行いますが、気管支拡張剤の吸入前後で肺機能を比較する更に
     詳しい検査を行うことも可能です(気道可逆性試験と呼びます)。

   6.腫瘍マーカー
     肺癌が存在すると、血液中のある物質の濃度が高くなることがあります。
     これらの物質を総称して腫瘍マーカーと呼びます。腫瘍マーカーはすべての
     肺癌で上昇するわけではありませんが、画像所見などと組み合わせることで
     肺癌の有無、治療経過の参考などに応用できます。



  付記:喀痰検査を3日間行う理由(確率上の問題)
   肺癌は大きく4種類の系統に分類され、喀痰検査では癌細胞が出現しにくい
   種類もあります。最も喀痰中に癌細胞が出やすいものは肺の中心にできやすい、
   
扁平上皮癌という種類で、喫煙者に多いものです。
   この扁平上皮癌は、癌の患者様では1回の喀痰検査で約60%の確率で
   癌細胞が喀痰中に確認され、40%の確率で癌細胞が出現しないとされます。
   検査を繰り返すことで、偽陰性(本来陽性であるはずなのに、何らかの原因で
   陰性となること)を減らすことが可能です。

   例:まだ診断が出ていない1000人の肺癌患者様が蓄痰細胞診を受けた場合。
     1回でも癌細胞が認められれば確定診断となります)

     1回目の検査:60%:600人が陽性(
診断確定
            40%:400人が陰性
     2回目の検査:1回目の検査で陰性であった400人のうちの
            60%:240人が陽性(
診断確定)→1回目の検査とあわせて
            40%:160人が陰性       
合計840人が確定

      ※1回でも癌細胞が確認されれば診断となりますので、1回目の600人は
       2回目の検査で癌細胞が出ても出なくてもよいということになります。

     3回目の検査:2回目の検査で陰性であった160人のうちの
            60%:96人が陽性(
診断確定)→1,2回の検査とあわせて
            40%:64人が陰性       
合計936人が確定

    以上をまとめると、
3回の検査で1000人中936人(93.6%)
    喀痰細胞診で癌の確定診断となります。
    これはあくまでも扁平上皮癌の喀痰中存在率が60%とした場合の理論上の数値で
    あり、実際には喀痰の採取状況などによって変化すると考えられますが、
検査を
    繰り返すことで診断率が上昇する
ことは間違いありません。
    (結核菌の喀痰検査でも同じように、喀痰検査を何度も繰り返すことで初めて
     結核菌が見つかることもあります。)

    また上記に示しましたように、喀痰中癌細胞が出現しにくい癌も多いので
    この検査だけでは検診としては不十分です。このためレントゲンなどの画像所見と
    あわせて検診を行います。




筆者:吉國友和

     
肺がん検診